
ずいぶん前のことになりますが、ある土曜日のことです。
親知らずが気になったので近所の歯医者に行く。
すると「よくこれで痛くないですね」というくらいの
末期の虫歯になっていました。
さっそく抜くことに。
ところがここからが大変。
歯なんてペンチみたいなのでスポッと抜くもんだと思っていたのが大間違い。
苦手な注射もして、ガチャガチャすること2時間以上。
二日酔いの為麻酔の効きが悪い上にもともと気弱。
少しでもグイっとされると痛くて痛くて。
「痛かったら、手を上げてください」といわれていたので、手をパタパタするが完全に無視。
そこで隙を突いて「いっ、痛いです。」というと
「少しは我慢してくださらないと」とブツブツいいながら麻酔を追加する。
さらに一時間。
それでもなかなか抜けない。
歯医者の方もイライラが募る。
「もっと口を開いてください」というがあごも限界。
しきりに「あっ、くそ!」とかいってる。
大丈夫かなと思いつつ、待合室にあった「××大学卒業証書」を思い出し、
「この男は確かな歯医者だ。うろたえるな。」と自分に言い聞かす。
しかし、3時間以上もたつとこっちも疲れてくる。
全身冷や汗とあぶら汗でべっとり。
しまいには「あっ、あごが痛くて外れそうです。」というと
「安心してください。僕はあごはめられるんで」となぜか得意顔。
ますます不安になりながら、その時はまだ、なんだかんだいいながら最終的には抜けるんだと信じていました。
まさかこんな結末が待っているとは。
4時間に及ぶ格闘の末
「すみません、抜けませんでした...」
「えー!」と思いましたが、なぜか金払わされて家に帰る。
仕方ないんで、そのやりきれなさをアルコールにぶつけて、とことん酒飲んで寝ました。
翌日しらふになって思い出しました。
昨日の歯医者の帰り際のせりふ。
「友人に相談しとくので来週又来てください。」
友人?
友人っていったい誰なんだ。
強い疑問をもちつつも断れない性格に付け込まれて、強引に翌週の予約入れさせられた。
そして律儀にも予約を守ってしまう私。
情けない...。
翌週また長い格闘が繰り広げられました。
そしてついに、その友人のおかげか、とうとうこの瞬間が来ました。
歯医者「よっしゃー、抜けた!」
「本当ですか?ありがとうございました!」
やれやれ、とうとう抜けたか。
少し大変だったけど、まぁ抜ければ気分すっきり!
早く帰って、祝い酒♪
と、思ったのはわずか3分ほど。
医務室から移って清算済ましてから「実は...」。
えっ、なになに?
「取れたことは取れたんですが、歯の上のほうは取れて根っこのほうはうまく取れませんでした。
でも、心配ないです。いずれ、根っこは自然と浮いてきてポロッと取れますから」
「エー、なんじゃそりゃ」
「友人」の助言のおかげで親知らずの上のほうだけ取れたらしい。
やりきれない気持ちをおさえつつ家に帰る。
このやり取りを思い出したのは、この後5年ほどたってから。
最近別の歯医者にかかった時。
「根元だけ残ってる親知らずがありますね」
「はい、ポロッと抜けるといわれてるんですが」
「いやぁ、自然に抜けることなんてないですよ」
ガッ、ちょーん。
よくよく考えれば、そらそうだ。
苦労しましたが新しいところで、無事抜けました。
Text No.1225 ロッキー