HARD ROCKY'S CAFE −21−

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い覚ましにデッキに出ようとしたが扉が開かない。

施錠されてるわけでもないらしい。
吹き付ける強風と船内の空調のせいで扉が重くなっていたのだ。


重をのせてこじ開けてようやく出られた。

中の暖房は暑いくらいだったが、さえぎられることのない海風はただ冷たい。

波は不思議と静かで、たまにしぶいて頬にあたる。

しぶきに混じって、氷粒のように硬くなった雪がパラパラとあたって痛いくらいだ。

 

手元の時計を見るといつの間にか0時をまわり、もう少しで1時になろうとしていた。

吹き続ける強烈な風を体にうけながら、一段一段外階段を上がる。

ふと空を見上げると、流れる雲の切れ間から一瞬シリウスが見えてすぐに消えた。

暗い玄界灘は風の音ばかりで静かだ。

広い宇宙の中で、ぽつんと黒い真綿にくるまれたような心地がした。 



ルの屋上のようにだだっ広い最上階にいくと、
後方の巨大な煙突から低いエンジン音が響くだけで人けはない。

強風に立ち向かうように向き直って正面を向く。



不意に「あっ!」と声が出る。

いつの間にか、釜山の街が間近に迫っていたのだ。

釜山は平野部から山のほうにかけてベタッとした鈍い光を放ち、
その手前でイカ漁らしい無数の漁船が煌々と散らばっている。

 

夜景の美しさにしばらくあっけに取られていたが、「グレートジャーニー」の出発点となる釜山港を前にして一気にテンションが上がる。

夜行だった昨日も徹夜同然だったのにますます目が冴えてくるようだ。

挨拶代わりに、釜山に向かってありったけの大声で母校の応援歌を歌う。

「鈴鹿の山なみ仰ぎ見て 高く望まんわれらが理想 行く手を阻むものあらば 生気と意気でいざすすまん 若きわれらが命の限り 今こそ示せ気高きちから~」

最後に「ウォー!、ウォー!、...」と雄たけびをあげて、幾分落ち着き船内に戻る。

 

の「関釜フェリー」、日本籍と韓国籍の船が毎晩交互に釜山と下関を行き来している。

どちらの船になるかは港に行ってからわかるが、断然韓国籍のほうが好きだ。

日本籍のほうが新しくてきれいなので人気があるようだが面白みに欠ける。

なんといっても韓国の船は韓国の香りがするのがいい。

乗船の時点でもう韓国に来たような気になるのだ。

この臭いは韓国の田園地帯でもソウルのような大都市でも共通して漂っている。

きっと土の臭いか人の臭いなのだろう。

 

内に入り、コートのままバーに戻る。

バーといってもカラオケホールの隅に5,6席のカウンターが設けられただけのものだ。

 

さっきまで初老の男が座っていた席に女性客が一人で飲んでいる。

見たことある顔だと思ったら、エントランス脇の売店の売り子さんだった。

ひとつ置いて隣の席に座ったがこちらには気づいていないようだ。

若いバーテンにずっと職場の愚痴をこぼしている。



けばこの小柄なバーテン、まだ25だという。

能面のような表情の乏しさで、グラスを拭きながら彼女の話に時折相槌をうっている。



いい感じに酔いがまわったころ、売り子さんこちらの存在に気づいたらしく、
「ねぇタケちゃん、こちらのお客さんにあの日本酒飲んでもらえば?」と話しかけている。

なんのことかわからなかったが、バーテンは「あぁ、そうだね」といいながら
おもむろに後ろの棚にあった日本酒を「どうぞ」と言って注いでくれた。

「えっ?いただいていいんですか。」

「いいのよ、いいのよ。あの社長、いっつも偉そうにふんぞりかえってんだから。
水たしときゃわかりっこないわよ」
と売り子さんが応えてくれた。

 

いいのかなと思いつつも杯が進む。

気づいたら「社長」のキープをバーテンもいっしょになって飲んでいた。

そしてついに底ついた...。

「いいんですか?」とこちらが気にかけても「大丈夫よ!大丈夫。」と、売り子さん横からケロッとしている。

まぁ、きっとなにか裏技があるんだろう。

 

「ねぇ、このタケちゃんすごいのよ。もともとは大手の商社マンで子供までいるのよ、まだ若いのに。」
と売り子さん、ろれつの怪しくなった話っぷりで教えてくれた。

流れで「へぇ、なぜこんな船の上でバーテンやってるんですか?」と尋ねると

「いまだにカミサン愚痴るけど、この仕事昔から興味あってね。
やってみたら結構性に合ってるみたいで楽しいんだよね。」


まだ25才で「カミサン」はないだろうと思ったが、好きな仕事をするって恰好いいものだなと思った。

若いバーテンがなんだか眩しく写った。

 

(全てフィクションです。)

ヨン様ファンの飲み屋のマダムにつられて、ついつい妄想が韓流になってしまいました。





週の3連休は行楽に出かけられた人も多かったのではないでしょうか。

僕は阿部寛さん主演「歩いても歩いても」観ました。

とてもいい映画だったのに途中から猛烈にトイレに行きたくなり集中できなかったのが残念です。

めっきりトイレが近くなり、歳を痛感させられた連休でした。


Text No.1225 ロッキー

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